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東京タワア

西暦二〇一一年七月二十四日。

 東京タワーから発信されるアナログ放送の電波が停止した。

 その翌日。

 

 深谷レイジは、東京タワーが無くなってしまう夢を見た。

 解体とか、崩壊とか、そういう事ではなく、ある日、何の前触れもなく忽然と姿を消すのだ。

 もちろんそれはただの夢だ。現実にそんな話が起こり得ないなんて事は誰でも分かっているし、あんな巨大な建築物が一瞬にして姿を消すなんて物理的に不可能だ。それはもはやマジックショーやSFの領域になってしまう。

 

 朝、目覚めた瞬間の、夢見心地に脈絡の乱れたとろくさい頭で、レイジはそういう事を考えたのだが、いつもなら覚醒と同時に霧の如く虚空に沈むその夢の映像は、何故か頭から離れなかった。

 

 聳え立つ東京タワー。

 消え失せる東京タワー。

 

 壊れたフィルムみたいなその短い映像は終わりまで流れるとまた巻き戻され、消えてはまた現れ、消える度にまた現れを繰り返し、テンポの良いマジックのように、ぱっぱっと入れ替わる。それが視覚と平行して頭の中でイメージされていく。

作/甲斐 寛樹 写真/亜沙美

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