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​フラワルド

 ロケットが、空へ吸い込まれて行く。
 

 観客席の最前列で、幼い僕は、ただ無心にその姿を目で追った。
「すごいなあ」
 すぐ横で、父が言った。
 たしか、父だった。

 

 打ち上げを見にきた観客達はすし詰め状態で、父とは確かに手を取りあっていたものの、人が多過ぎて内緒話も筒抜けになりそうなほどだったから、他の誰かが言った言葉を覚えているだけなのかも知れない。
 

 でもあれは父の声だった。
 僕はそう思いたい。

 

作/甲斐 寛樹 写真/亜沙美

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